2012年にスタートした札幌サドベリースクールに娘が小学1年生で入学しました。当時娘の父親が海外勤務をしていた関係で日本と外国を行ったり来たりする予定があり、公立の学校の仕組みでは生活スタイルに合わないと考えてのことでした。サドベリー教育は子どもが主体で、のんびりしたところがすごくいいなと思いました。
事情により翌年から私が運営と代表を引き継ぐことになり、同時期にシングルマザーにもなり、いち保護者で主婦という立場が一転。いま思えば人生の荒波だったと思いますが、なんとか溺れずにここまでやってきました。
スクールの運営に関しては、最初から「自由であること」と「自分勝手にふるまうこと」の違いについて、どこに線引きをしたらいいのか悩みました。すべて子ども任せでいいのか、討論の文化がない日本でアメリカのやり方をそのまま真似て大丈夫なのか、風土と習慣の違う教育をどう解釈したらいいのかなどが難しいところでした。
これまでうまくいかないこともたくさんありましたが、それも含めて、あきらめない姿を子どもに見せることができてよかったと思います。温かい関係性の中で育った娘は、片親ということをそれほどネガティブに感じることなく過ごせたのではないかと思います。私もスクールの子どもたちの明るい笑い声といきいきした表情にたくさんの勇気をもらい、保護者の方からの感謝の言葉に励まされ、自分の中に教育への情熱があったことにも気がつきました。
また、スタッフ・講師陣として関わってくれている才能豊かな友人たちのおかげで、科目の勉強、音楽、芸術、食育など、子どもの要求に応じた幅の広い学びを提供することができています。お互いに切磋琢磨し、助け合い、おかしいことはおかしいと率直に意見を言い合える関係になれたことはなによりの宝です。
2018年には法人格を取得、札幌市のこども未来局と連携し運営の支援をいただけることになりました。札幌サドベリースクールのこれまでの取り組みを評価してくださったことを嬉しく思います。またスクールの再スタートからご支援と応援の気持ちをお寄せくださいましたすべての皆様に心から感謝申し上げます。ありがとうございます。これからも子どもにとって良い居場所であるよう頑張って参ります。
サドベリースクールとは
アメリカのボストンにあるサドベリー・バレー・スクールに共感し同じ理念の下で運営している世界中の学校の総称(認可制ではない)。2018年現在、世界には約50校のサドベリー・スクールがある。
サドベリー・モデルの特徴
- 1
生徒はルールの範囲内で自由に行動できる。そのルールを学校参加者自身(主に生徒とスタッフ)により決定していく。
- 2
生徒は学ぶべき内容を学校から押し付けられるということがなく、自らの好奇心のおもむく事をルールの範囲内で追求することができる。
- 3
子どもたちを年齢別に分けたり、「クラス」単位で行動するように強制はしない。
- 4
子どもは生まれながら好奇心を備えていて、生きていく上で必要のあることは自分で学んでいくことができるという考え方を大切にしている。
- 5
サドベリー・スクールは生徒とスタッフだけが参加できるスクール・ミーティングによって民主的に運営され、自分たちの学校自治を当事者が行っていく。
自主性を引き出すための具体的な活動
サドベリースクールは自主性をとても大切にしています。ですが本当の自主性とはなんでしょうか。いったいどうしたら出てくるのでしょうか。たとえば大人でいうと、「毎日お金がなくなるまでパチンコしたい」という気持ちは自主性ではないですよね。これは依存的な欲求です。
子どもではどうでしょうか。ゲーム、お菓子、ジュースなどはもしかしたら大人でいうパチンコのような依存的な欲求かもしれません。でもゲームも立派な文化です。そこらへんの見極めが必要そうです。
そんなことを考えると、幼いころから親の言うことを聞くだけ、先生の言うことを聞くだけ、テレビの宣伝通りに買い物をしていたような家庭で育った子どもに、さあ今日から自由ですよ、なんでも好きなことやっていいですよ、自分の頭で考えてみてください、と言うのは現代の日本では少しばかり酷かもしれません。
札幌サドベリーではどうしたら自主性が発揮されるのかをずっと考えてきました。子どもたちが本気になり集中し目がキラキラしたやつです。入学時の年齢によって関わり方は様々ですが、これまでの具体的な活動についてまとめました。その一部をご紹介します。(すべての子どもに当てはまるわけではありません)
- 1
規則正しく繰り返される生活リズムの中で情緒を安定させていく。
→単純なカリキュラム、曜日の固定等 - 2
緊張の強い子には安心して過ごせる環境で生きる土台となる関わりから始める。
→マズローの欲求段階説を参考にスタッフ間で周知徹底する - 3
食育を通して生産者、調理師、命を頂くことへの尊重と感謝の気持を
持てるような関わりをしていく。
→わがままな偏食、食わず嫌い、お菓子ばっかり食べ等の悪習慣を正していく - 4
食事の安定と並行して体力をつけるような活動をプライドを傷つけないように
気をつけながら無理なく進める。
→体力が落ちている子どもは疲れやすく、集中力、忍耐力に欠け、物事への意欲も出てきにくい - 5
小さな成功体験を積み重ね自己肯定感を育む。
→お菓子作り、貼り絵、粘土、ミーティングでの発言を肯定される等 - 6
子ども同士の関係性がよくなるよう必要に応じて仲介役をする。
→スタッフに助けを求めるときを見逃さない、行動の背景を想像しながら話を聞く
行動を咎めない、言葉が出てくるまで待つ、子どもたちに順番に話すよう促す等 - 7
スタッフ、講師陣の関係性が良好であること。
意見や感情をよく話し合っている姿を子どもたちに見せる。
→子どもたちは言葉で説明することよりも大人の在りようを模倣することを忘れない - 8
大人が人生を楽しんで色々なことに挑戦する。
→子どもたちが未来への希望が持てるよう、社会に出ることが楽しみになるように
大人が社会性を発揮している姿を身近で見せる - 9
知識や能力は年齢、立場関係なく大人も子どもから学ぶ姿勢を見せる。
→少し先に生まれた大人としてこの社会のルールを伝える役割を果たしつつ、
豊かな感性 と柔らかな頭、未知の才能を持った存在への尊敬と尊重を忘れない